自身のクラスはこの中学校の本校舎二階に位置しており、入学したての一学年はすべてのクラスが同じ階に位置している。三階は主に二学年のクラスが配置されており、他学年の生徒はあまりこの階には立ち入らない。四階まで来るとブラスバンドの音がさらに強く感じる。音楽室から聞こえてくる音は防音効果から、耳を塞ぐほどではないがそれでもけたたましく響いている。
「学生生活、桜花してるなぁ」
独り言を思わず呟きながら歩いていると、絵の具の独特な匂いが鼻に入ってきた。視線ををその先に向けると美術室と書かれたプレートが目に入った。
廊下から通りすがりを装い、活動風景が目に入った。モチーフを囲んで数人の部員たちが熱心にデッサンをしていた。経験者から見ればまだまだ粗があるのだろうが、素人目からみればかけ離れた技量に思わず感心してしまう。
こうしてみると文科系の部活もそれぞれ多彩な特色や楽しみ方が見受けられ、各生徒たちが青春の時間を使って懸命に取り組む姿は魅力的なんだなと多少なりの実感を受けた。
学生部活というと運動系の部活が表舞台で日の目を浴び、文科系の部活は目立たなく、こじんまりと活動しているものだとの印象しか持ってなかった。そんなことは俺の思い込みでしかなく、皆の充実した表情をみると、自分も何かに打ち込まないとといけないのではないかという思いに苛まれる。
ただ苛まれるだけで、それは決断には結びつかない。
*
そんな皆の充実した学校生活をうらやましく思いながら通り過ぎていくと、目的としていた場所がようやく目に入ってきた。
学校の四階の一番はずれにあるその場所は、他の教室等に比べて間取りが大きく、独特の安心する紙のにおいが充満していた。
今までの部活のような目に見えた活気はないが、訪れる生徒にとって学校の中でも一二を争うほど重要な場所かもしれない。
まあ、若干大げさかもしれないが、どの学校にもある図書室のことだ。
この学校に入学してからまだ一度も訪れたことがなかったし、ちょうど何もすることがなく、暇でもあったので気の向くままに訪れてみようと、一つ思い立ったのだ。
図書室に入ってみると思っていたよりも学生たちの姿が見受けられた。
同じように同学年と思われる生徒が本棚の前で書物を吟味してたり、本棚の近くに設置された読書机では上級生が教科書を開き熱心にペンを走らせていた。
入り口付近の貸出カウンターを横目に抜け、本棚に向かっていく。
科学書、歴史書、文学書など、ジャンルごとに並べられた本の背表紙を眺めていく。特に何か読みたい本があったり、勉強を目的として訪れたわけではないのでタイトルだけみて興味のある本を数冊見繕っていく。目当ての本を引き抜くと両隣の本がふらふらと揺れ動く。
小脇に数冊の本を抱え、空いている席を探した。ちょうど窓際の机の席の一つが開いていたが、その机の上には大量の本が積まれていた。他の机を見渡しても、そこまで読書に夢中な人物は見当たらなかった。
ちょっとしたテリトリーのような、その席に座るのは少し躊躇したが、他に空いている席が見当たらない。
「まあ些細なことだろう」
少ない言葉で自身を鼓舞して席に着いた。さて手にした本でも早く読んで見るか。
*
十分ほどたっただろうか。手に持ったミステリー本のページをめくろうとした際、視界の片隅に大量の本を抱えた女子が、俺の目の前でさらに本を積み上げていた。
相当な読書好きなのだろうと、軽く考えていただけで、視界の片隅に入った姿に、特に気にも留めなかった。
*
「……」
さらに十分ほど経ったころだろうか、目の前の少女の視線を感じるような気がした。
じろじろ見るのも失礼だと思い、あまり意識しないようにしていたが、気になって仕方がない。もしかして一人でゆっくりと読書をしたかったのか? 邪魔してしまったかと不安に思っていた際、女子のほうから声を掛けられた。
「ねえ、小綬、その本貸してくれない?」
突然名前を呼ばれ、声のほうに顔を向けると、そこには見知った顔があった。
しかめ面で。
「——」「……」
驚きで目を丸くした俺の視線が、その女子と交わる。本を片手に持つ理知的な美貌に一瞬見とれたが、その人物が誰だか認識した際には、すぐさま憂鬱な気分に取って代わった。
「百代、何しているんだ?」
向こうも多少驚いていたようだ。おもむろに本を閉じると目を閉じて一息ついた。
「意外よね。あなたがいるのは」
百代は目を細めて、こちらをじっと見てくる。
百代の皮肉を込めた意味を理解できないほど馬鹿ではない——が確かに普段はこういう場所に来ないけどな。
「どういう意味だよ」
「いった通りよ」
こちらを見ずに、つんとした口調で言われ甚だ心外だが、百代のぶっきらぼうな物言いには最近、多少は慣れてきた。
「……で、その本貸してくれるの?」
百代の視線が、俺がさっき見つけてきた本に注がれていた。
人にものを頼む態度か、と軽く呆れてはいたが、その申し出を拒否することにメリットもデメリットもないので、手元のある本を百代の前に差し出した。
「あら、ありがとう」
意外な言葉が返ってきたことに多少驚いた。
「感謝はできるんだな」
こちらも多少の皮肉を交えて伝えた。ただ百代は既に本の世界に十分浸っていて、俺の返事に特段の反応は帰ってこなかった。
俺もそれ以上は何も答えず、手元で読み止まっていた本を再度開き読み始めた。
*
時間は午後の四時三十分を過ぎた頃だろうか、そろそろ帰ろうかと考え、手にしていた本を閉じる。
閉じた本の上から目線を前に向けると、未だ読書に没頭している百代の姿が映る。
百代の脇に積まれた本をみていると、まず分厚い専門書が目に飛び込んだ。学生の本分である勉学の為に図書館を訪れたかと思ったが、周りに置かれた一般書サイズの本を見ると、ミステリーやファンタジー、SF等の本が散乱していた。
好奇心の強い性分だと若干感心しつつ——それらの本を読む百代の顔は楽しげだったり、寂しげだったり、驚愕の表情を浮かべたりと、普段見たことがない多彩なものだった。
ころころと変わる表情を見ている分には、意外と飽きというのは来ないものだな、と今更実感した。
ふと、百代をじっと眺めている自分が少し恥ずかしくなり、頭の片隅に思い浮かんだ、先日の部活紹介について口走っていた。
「……百代ってさ、普段の学校生活が退屈なのか?」
それまで読書に没頭していた百代が反応を示して本を閉じた。
「……」
じっと、こちらを見つめてくる瞳には何か訴えるような感情が感じ取れた気がする。
「いや、此間の体育館での部活紹介でそんなこと言っていたなと思ってさ」
その言葉を聞いた百代は本を閉じて、机に置いた。
「だって、つまんない奴ばかりじゃない」
百代はたまった鬱憤を晴らすようにつらつらと話し始めた。
「これを見て」
彼女は手にしていた本を俺の方に差し出してきた。その本の表紙には宇宙が描かれたであろうタイトルの、少し分厚い本だった。SF小説か何かだろうか。
「小綬、宇宙人とか未確認生物、会ってみたくない?」
年頃の同級生ではなかなか耳にしないような、唐突な話題に若干面を喰らったが、百代が口にするとあまり違和感は感じない。意図自体は全く分からないが。
「危害を加えないような宇宙人だとしたらな」
当たり障りのない返答を返し、百代の顔を見た。半分冗談のような会話だと思ったが、百代は微かに悲哀を含んだ表情をしていたように見えた。
「好戦的な奴らもいるだろうけど、私たちは違うわ」
「それは良かった」
仕方なく百代の妄言に付き合っていると——表情に出ていたのか、百代は手に持っていた本を閉じた。
「信じてないわね……幸いだけど」
百代は不満とも安堵とも取れない表情を浮かべていた。閉じた本をしばらく見つめていたが改まってこちらを見ると、その表情には窓からの夕焼けが差していた。
「私の秘密知りたい?」
*
女子からの「秘密」と言う突然の告白に一瞬目を丸くしたが、俺は努めて平静を取り繕った。
「なんだ秘密って、別に聞いてもいいけどな。俺、口は堅い方だし」
おどけつつも心の片隅では——もしかして愛に告白か——等と若干期待をしてしまったことは事実だ。健全な男子では当然の反応だと思いたい。
それに百代は傍から見れば俺が見た学校の女子の中では群を抜いて美少女だからな。こういう所は俺も男だなと思う。
「後戻りできないけど、良い?」
「一度言った言葉を引っ込めはしないぞ。俺も男だ」
そう、と百代が一息ついた。後戻りできないという言葉が気にはなるが、まあ深く考えないでおこう。
「私は毎日見てるわよ、あなたの言う宇宙人を」
「……」
「……そうだったのか」とは言わないぞ。何を言っているのだか全く分からなないのだから。
「とりあえず話を聞いて」
きょとんとしている俺の表情を意に介さず百代は続けてきた。
*
「ここに来たきっかけはね、私たちの惑星で観測された、地球での不可思議な観測について調査するためだったの」
「この宇宙では様々な事象の一つ一つに時間の歪みが生じているの。それは本来、生命体には認識できない無ともいえるものなの」
「ただ、この時間の歪みを、ある生命体の脳波が捉えてると思われる事象がこの惑星で確認されたのよ」
「これは今まで観測できる限り、この宇宙上ではなかった現象なのよ」
「そこでよ。その生命体と接触してその現象を確認することが目的で来たんだけど、まあ
それだけじゃつまらないじゃない」
「事前にこの星の書物を手に入れて少しは勉強してきたの」
矢継ぎ早に話を続ける百代に、ようやく割り込むタイミングを見つけた。
「勉強?」
「そう。特にここ、日本の書物が私の心を揺さぶったわ」
「そこに書かれているものは、私たちの世界にはない概念が多く記されていたわ」
「そして期待を大いに抱いてこの惑星、日本に来たの」
「少し時間がたったけど、何も面白いことがないのよ。事前に仕入れた書物からの情報だと、この区域、ここでは超能力や特異現象、超常現象が頻繁に起きているって書いてあったのに」
今までせき止めていたものが結界したかのように饒舌に喋っている。先ほどまでの百代の悲しげな表情は消えていた。
けれど今度は俺の方が悲しくなった。おそらく表情にも表れているだろう。
心の中で後悔の念仏を何度も唱えたい気分だった。百代がここまでエキセントリックな奴だとは思わなかった。
*
「私はここに来てからやってみたいことがあったの」
「へえ」と空返事を返した。
「まずはね、個性的でちょっと変わった能力を持った人材が私の元に集まってほしいわね」
「それから、この地球で起こった……、いやこの宇宙での摩訶不思議な事象や謎を、仲間たちと協力したり、時にはぶつかり合いながら難事件を解決していくのよ」
握りこぶしを図書室の天井につき上げながらそう力説する。図書室を訪れている生徒たちの視線がこちらに集まっている。頼むから声のボリュームを場所に合わせてくれ。
儚い希望が脳裏をよぎったが、当の百代は使い古された日本の空想的世界観を次から次へと、興奮しながら述べていく。反対に俺は顔を少し伏せ、百代の丸い直視を逃れる。
「……そうだとしたらさ、お前は何でこんなところで学校生活を送ってるんだ? その未確認生命体とやらに会いに行けばいいじゃないか」
一方的に話していた百代の奇想天外な話を少しでも助長させないよう、会話の問題点を指摘した——つもりだった。
「……」
百代の大きな丸い目が、俺の顔をまじまじと見つねてくる。不本意ながら、ちょっとだけ照れてしまい視線を窓の外に向けた。
「あの……、お話し中すいません」
突然、真横から第三者に声を掛けられた。驚いて声の主に目を向けると、眼鏡をかけた、見るからにおとなしそうな女子が立っていた。
「……」
眼鏡をかけた女子が俺と百代を交互に見ていたが、俺の方は彼女の顔に見覚えがなかった。
「……」
目の前の百代は、自身の額に指をあて、天井を見ていた。いや正確には目を瞑っているから見てはいない。
「……図書委員です」
そうだ。確か図書室に来た際、カウンターにて返却作業に追われていた姿は彼女だ。
「そう。その図書委員さんが私にどんな用事があったのかしら?」
百代は自分には何も非がないとでも、訴えるような視線を彼女に送っていた。俺の方はこの場所にはふさわしくない会話をしていた自覚はあるので、自然と視線を逸らしてしまう。
「もうすぐ利用時間が終わります」
「……」
その言葉に百代は目を丸くしている。これには何も言い訳できないだろう。
「そ、そうね。悪かったわ。それにもうそろそろ片付けようとは思っていたのよ」
慌てる百代を尻目に図書室を見渡し掛け時計を見つけた。時刻は午後十七時回るかというところだ。既に図書室には数えるほどの生徒しか残っていなかった。
「何も借りる予定がないのなら、こちらの本は片付けておきますね」
「あら、悪いわね。私たちも手伝うから」
いつの間にか俺も頭数に含まれていたようだ。仕方ないが男は俺一人だ。
俺と百代と彼女は、机に積まれた大量の本を手分けして、元の場所まで戻していった。
*
「これで最後ですね、あとは任せてください」
正面でいくつかの本を抱えた彼女が笑顔を返してくれる。小柄な彼女には荷が重そうに感じる。
「本当に大丈夫か?」
「はい、気にしないでください」
「そう……ありがとう。また来るわね」
俺と百代は互いに顔を見合わせたが、彼女の好意を汲んで、その場をあとにすることにした。彼女も手に持った本を片付けようと本棚へと振り返った——。
「きゃあ!」
彼女に背を向けた瞬間、突如悲鳴が上がり、百代とともに声のもとへ反射的に振り返った。
俺たちの目に飛び込んできたのは、図書委員の彼女が、足をもつれさせ近くの本棚に体をぶつけた瞬間だった。彼女は手に抱えた本を滑り落とし、傾いた本棚からも大量の本が床に散乱していく——次の瞬間、俺は自分の目を疑った。
「ちょ……うそだろ」
ぶつかった本棚がぐらぐらと揺れた後、ゆっくりと倒れ始めた——彼女の方に。
彼女の身長の倍はあろうかという重そうな本棚の動きがスローモーションに映る。ただ突然の出来事に俺の足も口も全く動かない。
冷や汗が背筋を通った瞬間、俺の横にいた百代が本棚に向けて素早く飛び出した。その姿を見て、俺の足もようやく動いたが——とても間に合う距離ではなく、それは百代も例外ではない。本棚の倒れるスピードは絶望的で、俺は思わず目を瞑ってしまいそうだった——がそれは出来なかった。
「————」
先ほどの一瞬よりも俺は自分の目を疑った。
先ほどまで加速度的に倒れてきた本棚が彼女の手前で急に減速したように感じた。何が起こったのか——まるで時間が止まったかのような瞬間。
「でやあぁぁぁ!」
百代がダイビングジャンプとともに彼女を抱えて床を滑って行った。
ドガァァン!
耳を劈く大音とともに本棚が床に衝突した。
あまりの出来事に、図書室に残っていた生徒たちが駆けつけてくる。
生徒たちが彼女や百代や俺に次々と声を掛けてくる。けれど、俺はそれを上の空で聞き流すしか出来なかった。
*
自宅までの帰り道を、ゆっくり自転車をこぎながら通学路を進んでいた。日が沈みかけで、薄暗くなり、自転車のライトを点灯させる。
前方が明るく照らされたが俺の気分は最大限に沈み込んでおり、どこか上の空でペダルをゆっくり回していた。坂をしばらく下るとちょうど信号が赤に変わるところで、スピードを緩めて片足を地面につける。
「はあ……」
その溜息は信号に足止めを取られていることではなく、つい先程の出来事を思い出してのことだった。照らされる前方と前を横切る車を眺めながら、百代とのやり取りを思い返していた。
*
大きな衝撃音に驚き集まった生徒や司書員が床に倒れた重厚な本棚を掛け声とともに立ち上げた。そのあとは散乱した書物を元の場所へと手分けして集め、そんな中、俺と百代は先程助けた図書委員の少女に長いこと頭を下げられていた。
百代は「そんなに大したことはしていないわ」と言っていたが、得意げな表情自体は隠しきれていなかった。俺自身も実際、百代の行動には感心していた。
図書委員の少女からの感謝と謝罪の言葉から解放された後、俺はふと彼女と会う直前に、百代としていた会話を思い出していた。
「そういえば何か話していた気がしたけど、百代、なんだったっけ?」
俺の問いかけに百代自身も、少しの間目を丸くしていたが、何か思い至ったようで両手を軽くたたいた。
「やっぱり自覚はないようね」
百代から全く予期していない返答が返ってきて、今度は俺の目が丸くなっていることだろう。
「どういうことだ?」
俺の表情を確認した百代は、小生意気な笑みを浮かべていた——そして、おそらく、次の百代の言葉を聞いてから俺の平穏な日常が、徐々に非日常的世界へと導かれていくことになっていったのだと思う。
俺の方へ一歩歩みを進めた百代は俺に顔を近づけた——その迫力に俺自身は、若干体をのけぞらせた。
「それは、小綬、あなたよ」
「……言っている意味がよく分からないが」
予期しない名指しに多少狼狽しつつ、またこの不毛な会話を終わらせることができなかった事に頭を悩ませた。
その反応は百代もある程度予期していたからなのか、さもありげな表情を浮かべていた。
「やっぱり自覚はないのね」
百代は図書室にまだ残っている他の生徒達を見渡し、話を続けた。
「あなたは今までの生活の中で他の人間と自分は違うと感じたことはないの?」
「俺は至って普通の日本人だ」
生まれてから今までを思い返してみても、他人より秀でていることや劣っていることは思い浮かぶが、百代の言う意味はこれとはまったく違うものだろう。
「それにお前のいう時間の歪みとか脳波とかの話は、俺にとって難しくて、いま少し要領がつかめん」
「そう……、まあいいわ、いずれ分かることになると思うから」
百代はそう告げると手元にある大量の本を整理し、一部の本を鞄にしまいだした。まだ話は終わってないのだが。
仕方ないから、俺も読みかけの本をきりの良いところまで読んでから帰宅しよう。
一通り片付けを終えた百代が鞄を持ち上げ帰宅しようと席を立った。
「そうね、一つ伝えておかないといけないかもね」
鞄を持ち、こちらにふり向いた百代は微笑を浮かべていた。
「まだ何かあるのか?」
「私の正体を教えたからには、あなたは私の監視下に置かせてもらうから」
そう告げるとうきうきとした足取りで何やら上機嫌に図書室を出ていった。
物騒な言葉に少々固まっていた俺はふと我に返り、心の中で内を言っているんだかとつぶやくと、一冊の興味を魅かれたSF小説を手に持ち、カウンターまで持っていった。
*
先程までの出来事を思い返していたが、待っていた信号が青に変わると左右を確認して自転車にペダルを回し始めた。
「久しぶりに辞書でも引いてみるか」
百代が先ほど言っていた監視の意味が俺にはよく分からない。もしかしたら俺の知らない良い意味が隠されているかもしれない、と期待を込めた。
ただ、もやもやした気持ちは晴れないまま、日が沈んだ通学路を帰っていくことになった。
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