【Novels】月日は百代の祝賀にて 第41話

庭園書庫

 改めてこの部屋を訪れた彼女を見た。

 小柄な体に透き通るような小麦色の肌や染みとは無縁なきめ細やかなもので、もともと肌黒なのかもしれない。ツインテールを頭の後ろで結んだ彼女の表情は抑揚があまり見られない人形のような表情を浮かべている。

「彼女は私のクラスの晩稲綴(おくて つづり)さんです」

「……どうも」

 海端の紹介に綴と呼ばれる少女は小さい反応で応えた。

「どういう話が合って来たの?」

 海端が優しく彼女に訊ねると、ただ彼女はまっすぐ前を見て黙り込んだままである。

 俺がふと百代の反応を窺うと何やら腕組み、目をつむり考え込んでいる。いやおそらくふりだろう、演技臭さが滲み出ている。

「私がこの活動のリーダーでもある百代瓦よ」

 百代が目を開け、胸を張り、綴を見つめる。綴の方はというと百代や海端、俺の方をそれぞれ見る。少し俺の方を見る時間が長い。男がいると何か話しにくい内容なのだろうか?炬燵は何も気にしていないようだが。

「俺は席を外した方が良いか?」
「いや、いいです」

 落ち着いた口調でそういうから問題ないのだろう。仲間外れにされるよりも安心できる。

 綴は鞄の中から一枚の紙を取り出し机の上に提示する。

「これ」

 先程まで話題に出ていた百代が勝手に張り出した活動の宣伝ポスターだった。

信じられないが何か依頼ごとがあって、ここまで来たのだろうと思ったが口にしたのは意外な返答だった。

「あなたたちの活動は楽しそう」

楽しそうという割にはそんな表情はまったく表に出していない。というかこれは入部したいとかそういう事なのか?

「綴さんもここに来たいってこと?」

 俺の気持ちを読んでいたかのように海端が代弁してくれた。綴は海端の方を見て小さく頷いた。

「ちょっと立ってみて」

 少しの間だけ静かに見ていた百代が、真剣な口調でそう言った。

答えるように綴が立ち上がると、百代も立ち上がり彼女の後ろに回った。

何をするのかと思ったら、いきなり両手で彼女の体をまさぐり出した。

「きゃあ!」

「…………」

海端が驚きの声を上げ、綴のほうは微動だとしない、普通は逆だろう。俺が呆気にとられぽかんと心の中で呟いた。

百代はさらに彼女の匂いを嗅ぎだした。もう失礼極まりないとかそんなレベルじゃない。

「ふうん」

しばらく彼女の全身に対して鼻を動かしていた百代は納得?満足?したのか腕を組み考え出す。

「どうですか?」

 百代に全身を好き勝手にされるなか、まったく表情を変えなかった綴が振り返り、百代にそう問いかける。

「……合格よ!」

 腕組みを解くと、開口一番に満足げに伝えた。

 当の綴は百代の言葉を聞いても特段喜んだ様子はなく、すたすたと先ほど座っていた席のもう一度着いた。

「大丈夫?」

「平気」

海端が先程の百代の身勝手な振る舞いに対して心配していた。あいつなりの入部試験か何か分からないが、その行動は甚だ迷惑だと思う。

「いやー、でもこんな逸材がいるなんて予想外だわ。私の見る目もまだまだね」

 席に戻るなり椅子にふんぞり返って綴を見ながら、そんなことを口に出す。

「どうも」

 綴が言葉少なく反応する。小さな声で肯定も否定も感じられない抑揚だが、百代は全く気にはしていないようだ。

 百代が俺や海端、炬燵、綴それぞれに目を配る。

「小綬、どう?上々な滑り出しじゃないかい?
「……確かに予想外だな」

 百代の提案を聞いたときは何無謀なことをしているんだと考えたし、今もそれは変わらない。だけど実際にこうして席を並べる海端や綴や海端を見ると行動してみないと世の中は分からないものだと実感する。しまった。海端を見る回数が多い。

「……あんたにはもったいないようなメンバーでしょ」

 俺のあからさまな態度を百代が察したようだが、きょとんとした海端の表情に一安心する。……あれ綴がいない。

「ただ、肝心の活動の方が……」

 海端が依頼箱を眺めながらまっとうな意見を述べる。

「メンバーが集まったのはいいけどさ、百代、今後はどうするんだよ?」

 今までは順調に進んできたかもしれないが、こればかりは部外の人間に頼られないと活動はできない。

「この学校にも少しずつ私たちのことが知れ渡っているはずだから、もう少し待ってみましょう」

 珍しく百代が辛抱強いことを言ったかと思った時、目の前の机下から綴が出てきた。なにやら手に一枚の紙を持っている。しゃがんで鞄の中から探し当てたようだ。机の置かれた紙を皆でみると見覚えがある紙だった。その紙の見出しには校外学習についてと書かれている。

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